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地域創生と観光を巡る雑感

2022 . 9 . 26

 すでに約2ヶ月前のことだが、夏休みに四国・中国地方を観光客として回った。そのなかでタイプの異なる地域創生や観光の取組みに触れることが出来たので、忘備録も兼ねてここにまとめておきたい。

1. 神山町:#キーパーソン, #規模を追わない, #暮らしかたのアップデート

 神山町は地域創生の先進地域として、まちづくりに関心のあるかたなら誰でも知っている徳島県の山間部の町だ。ここの活動の母体となっているのがNPO法人グリーンバレーで、ネットの情報を読む限り、理事長の大南信也氏というかたのリーダーシップが推進力になっているようだ。神山町の地域創生の概要は、in KamiyamaというWEBサイトで確認できる。

 神山町の活動が他の地方と異なっているのは、そのスタートが「戦前にアメリカから贈られた人形を里帰りさせる活動」に端を発していることからもわかるように、始めから外部に対してオープンな視点を持っていたことだろう。そこからアーティスト・イン・レジデンス、ワーク・イン・レジデンス、サテライトオフィスの誘致などを通して人の往来が活発になり、それが宿泊や飲食等のサービス業の活性化につながり、さらに地域の第1次産業(オーガニック化、地産地消、デザイン・建築との結びつき)と結びついていくという好循環を生みだしている。それにより、まだ少ないながら地域に雇用が生れ、若い世代がUターンやIターンで定住する効果もあるようだ。

 1泊の滞在では、こうした動きと直接関係のない町民との関係がどうなっているのかは伺い知ることはできなかったが、GWに訪れた南相馬市小高区と同様、小規模でユニークな取組み点在させていく、というのは地域創生の定石なのだろう。今回訪れたのは、Week神山(宿泊施設)、神山バレー・サテライトオフィス・コンプレックス(サテライト/シェアオフィス)、Kamiyama Beer Project(マイクロブリュワリー)、かま屋(レストラン)、めし処萬や山びこ(レストラン)。Kamiyama Beer Projectはアーティストインレジデンスで神山町に来た、オランダ在住だった日本人(柴田のオランダ時代の薄い知り合いであることが判明)とアイルランド人のカップルが移住して始めたブリュワリーで、私が訪れた時は韓国KBSの取材が入っていた。取材クルーと少しだけ話をすると、これから神山町を3日間取材するとのこと。韓国にはまだこうしたタイプの町はないらしく、光ファイバーの全町敷設というインフラ整備だけでは語ることのできないこの町の魅力を解き明かそうとしているようだった。

画像:ワーケーション等にも対応している宿泊施設・Week神山

2. 淡路島#大資本, #関西大都市圏, #淡路らしさとは

 東京圏に住んでいると淡路島の位置づけがよく分からないが、地理的には関西大都市圏から日帰りも可能な手軽な観光地、東京圏でいうと伊豆半島くらいの位置づけなのだろうか。淡路島は数年前にパソナの本社移転がニューズをにぎわせたが、実はパソナは2008年の農業支援あたりから淡路島の関係づくりを始めており、今現在では観光関連でも多くの施設をプロデュースしている。さらにパソナ以外にも、幸せのパンケーキやアクアイグニスなどが海岸沿いに施設を展開している。また小規模で客単価の高い宿泊施設も増えているようだ。

 こうした淡路島のリゾートアイランド化・テーマパーク化の流れは、もちろん淡路島の経済に大きな貢献をもたらすだろうが、地域の文脈から切り離された作り物の危うさも感じられる。また淡路島では閉鎖された学校の転用が進められているが、やはり地元以外の資本による観光施設化が主な再活用の流れになっている。そうした施設のひとつであるSAKIAを訪れてみた。こちらも東京の飲食プロデュース会社が手がけているが、飲食が中心とはいえコワーキングスペースやこども図書館を併設するなど地域に開かれた施設構成になっていることに少し安心?した。

 淡路島は島としてはひとつだが淡路市・洲本市・南あわじ市の3市に別れており、淡路島全体としてのグランドデザインが描きにくい状況にあることは理解するとしても、未来に向けて淡路島が真に持続可能な発展を遂げることができるか興味深いところではある。

画像:SAKIA内のこども図書館KODOMONO

3. 伊根町:#一転突破, #開きすぎない, #海の京都

 伊根町は舟屋と呼ばれる独特な建築物が織りなす海岸沿いの風景が有名で、古くからの有名観光地・天橋立の近くにある。ちなみに日本海側・若狭湾に面したこの一帯は「海の京都」として10年くらい前からブランディングされ、GK京都もお手伝いをさせていただいている。そのなかで伊根町は電車が通っておらず道も狭いため、アクセスに問題を抱えているものの、自家用車やバスツアーでの集客を高めているようだ。

 以前から舟屋を民宿として使う例がなかったわけではないが、最近になってインテリアデザイン性の高いリノベーションを施し、さらに一棟貸しにすることで付加価値を高める流れが加速しているようだ。またそうした一棟貸しの舟屋は素泊まりが多く、地域の飲食店との相乗効果が計られているのもおもしろい。このような情報は個別発信とは別に伊根町観光協会のホームページで見やすく整理されており、伊根町に興味を抱いた人にワンストップで情報を提供している。

 今現在は、漁業に使われている現役の舟屋と宿泊施設等にリノベされた舟屋が混在しており、それが活きたまちとして魅力を高めているが、これ以上舟屋の観光化が進むと生活風景としての魅力が失われる危険性がある。今後はこのバランスを保ちつつ観光入り込みをコントロールしながら活力を維持していく難しいかじ取りになるかもしれない。

画像:伊根町の船屋群

4. 尾道市:#文化のリフレーム, #体験価値, #不便な地勢

 尾道市ではスタジオムンバイがリノベ設計を手がけたLOGに泊まっただけだが、個性的で高級な宿泊施設が増えている印象。例えばアマンの創設者であるエイドリアン・ゼッカが手がけたAzumi Setodaは最新の事例だろうし、高級リゾートフェリーのガンツウも、実はLOGと同じく地元の造船会社のツネイシホールディングスの事業として展開されている。またLOGの向いでは建築家の長坂常氏が築百年の日本家屋をアーティストインレジデンス施設として再生する、LLOVE HOUSEプロジェクトがクラウドファンディングで進められている。

 尾道でこうしたプロジェクトが成立するのは、瀬戸内文化の蓄積によるところも大きいだろう。またいい具合に不便というのもキーワードになるかもしれない。

画像:昭和30年代に建設された集合住宅をリノベしたLOG

 ということで大ざっぱにこれらの4地域をまとめると下記のようなマトリクスになる。もちろん資本駆動型に分類した淡路島や尾道にも個人のイニシアティヴで起こっている活動も多くあるし、神山町に新設される高専はソフトバンクなどの大企業から50億円を超える支援を集めている。ただ地方創生に限らず昨今の状況を見ると、ヒトの熱意から始まる動きのほうが結果的に持続可能であることが多いように感じられる。

 最後に余談を。私は旅行に出ると面白そうな書店に必ず行くようにしている。実は尾道には個性的な書店が数店あったのだが、定休日のため訪問することが叶わなかった。ここで言う個性的な書店とは、独立系で選書の意図が見えるような書店で、それらの多くはイベントなどにも積極的だったりする。ちなみに今回の旅行では鳥取市にある定有堂書店を訪問した。神山町にはそのような書店はなく、前述のグリーンバレーが「ほんのひろば」という活動を展開しているが、個性的というより一般的な書籍を集めているようだ。さらに話がズレるが個性的な書店がない青森県八戸市は、ブックディレクターに声をかけ市の予算で八戸ブックセンターを開設して、街場の書店では品揃えが難しい書籍を中心に扱っている。

 個性的な書店が成立するには、1)ある程度の人口、2)(人文系の)文化を育んできた歴史、3)個性的なオウナーの存在といった条件が不可欠になる。そして個性的な書店の存在を許すのが地域の奥深さとポテンシャルであり、地域が持続可能かどうかの強度を示す指標のひとつにさえなるのではないだろうか。


柴田厳朗 | デザイン・ストラテジスト

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