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地方創生/震災復興と観光を巡る雑感

2022 . 12 . 19

 11月初旬、山形・宮城・福島を観光客としてバイクに乗り駆け足で回ったので、例によって感じたことを軽くまとめておきたい。

1. 鶴岡市:#目的地型, #地産地消

 鶴岡市は霊峰・出羽三山を擁する山形県荘内地方の中心都市だが、今回の目的はパワースポット巡りではなく、坂茂氏が設計したスイデンテラスに宿泊することと、地産地消レストランの代表的な存在である奥田政行シェフのアル・ケッチャーノでディナーを食することという、まさしくミシュランガイドがいうところの「そのために旅行する価値のある」施設への訪問にあった。 

 スイデンテラスは慶應義塾大学先端生命科学研究所の誘致によって開設された鶴岡サイエンスパークに立地している。このサイエンスパークを企画運営しているのがヤマガタデザインという企業で、大手不動産会社に勤務していた(山形県に元々は縁がない)山中大介さんというかたが起業している。社名にデザインとあるが、いわゆるデザイン事務所ではなく、まちづくり・ひとづくりなど広義のデザインを指している。

 今回はホテルに宿泊しただけで、彼らの活動に触れることはなかったため、活動が地域にどう滲みだしているかまでは分からなかったが、山中氏がどのように鶴岡に関わるようになったか・今なにをやっているか等は、様々なかたちで紹介されているので、地方創生に興味があるかたは検索することをお勧めする。 

 アル・ケッチャーノは飲み物つきでコースを堪能すれば単価1万円を超えるモダンイタリアンだが、20数年前の開業当時から地元の生産者とのつながりを大切にしていることでも有名。私が訪問した夜の客層は、観光客8割、地元客2割といった感じ。もちろん遠来から定期的に通う顧客もいるとは思うが、初めての客は(私がそうだったように)奥田シェフの物語を確かめるために訪れているのではないだろうか?それが単なる情報の消費に終わらないとしたら、それは料理そのものの魅力の賜物であると同時に、このレストランに留まらない奥田シェフの様々な活動に拠るところが大きいだろう。

スイデンテラス(ロビー部)

2. 南三陸町:#風景と記憶, #BRT, #ワイナリー

 震災で甚大な被害を受けた南三陸町では、震災復興祈念公園、商業施設・南三陸さんさん商店街、震災伝承施設・南三陸311メモリアル、観光交流施設・南三陸ポータルセンターそしてJR志津川駅が一体となった、道の駅さんさん南三陸を訪れた。

 南三陸311メモリアルは隈研吾氏の設計による建築で、無料の展示と有料のラーニングプログラムが用意されている。ラーニングプログラムは映像プレゼンテーションと参加者同士が災害について語り合うミニディスカッションがセットになっている。これが参加者同士ではなく、参加者と被災体験者の対話だったらと思わないこともなかったが、運営的には難しいのだろう。

 震災復興関連施設のほとんどが立地特性上そうであるように、この施設群から見える河岸・海岸の風景はまったくもって人工的で、だからこそ逆説的に、地元の人にとって薄れゆく記憶から「以前の風景」を発掘するトリガーになりえるのだろうと思いつつ、それはそれでキツいことで、私のような部外者には想像もつかない葛藤があるのだろうと考えるほかなかった。また意表をつかれたのがJR志津川「駅」。一瞬「(鉄道)駅が復活したんだ」と思ったが、もちろんこれはBRTの駅。情報としては知っていても、現実を眼前にすると不思議な心持ちがした。

南三陸さんさん商店街

 南三陸では南三陸ワイナリーにも立寄った。こちらの代表者・佐々木道彦氏は、GKIDがデザインを手がけているワイヤード・ビーンズに勤務していたかた。山形県出身で震災時には静岡で勤務していたが、ボランティアとして東北に通ううちに、仙台にあるワイヤードビーンズに転職して、ついにはワイナリーを立ち上げたというユニークな経歴の持ち主である。元々は復興という文脈で立ち上げられたワイナリーだが、日本にはユニークで高品質なワイナリーが数多くあるなか、復興という枕詞なしに南三陸の食文化を提案できるか、挑戦は始まったばかりと言えるだろう。

南三陸ワイナリー

3. 石巻市:#いい感じの規模, #コミュニティ活動

 石巻では震災を機に立ち上げられた石巻工房のショールームに併設されたゲストハウス「石巻ホームベース」に宿泊。DIYの視点と建築家・デザイナーの創造性をうまくミックスした石巻工房の取組みはすでに10年以上続いており、グッドデザイン賞なども受賞している。

石巻ホームベース

 また石巻市中心部にも震災後に立ち上げられたコミュニティ拠点がいくつかある。私はコミュニティカフェ・IRORI石巻しか訪問できなかったが、石巻 まちの本箱シアターキネマティカなど、ユニークな文化施設も他にもあるようだ。ほんの数時間、街に滞在しただけだが、5月に訪問して感銘を受けた南相馬市に較べて、石巻のほうが色々なことが起こっていそうな印象を受けた。元々どういう文化や気風を持つ街だったかは知識不足で分からないが、ひょっとしたら石巻の約15万人という人口は、コミュニティや文化を活性化させるのに必要充分な規模ではないかと思い当たった。加えて仙台市までクルマで約1時間というのもプラスに働いているのだろう。(ちょうど私が住んでいる鎌倉と東京の関係に近いのかもしれない)

 仙台との結びつきでいうと、上述のIRORI石巻で手に取ったKappo 仙台闊歩という「大人のためのプレミアムマガジン」を標榜する雑誌の存在にも驚かされた。隔月とはいえ仙台や石巻を中心とした宮城県の情報マガジンが無理なく?成立するには、その背景に生活文化の積み重ねがないと難しいだろう。ちなみに完全に余談になるが、その雑誌のインタビューで遅まきながら知った作家・石沢麻依氏の芥川賞受賞作「貝に続く場所にて」は、震災による痛みを複層的な時間軸に置くことで浄化を試みた不思議な作品で、ブンガク好きのかたには一読をお奨めする。

IRORI石巻

4. 仮設とリノベ:#都市計画, #かりそめ

 ということで、5月の福島旅行と同様、今回も有名建築家が設計した建物より個の力の可能性を感じたわけだが、建築で少し気になったのは、訪れた商店街(南三陸さんさん商店街、シーパルピア女川かわまちてらす閖上)がいずれも仮設的な建築だったのに対して、コミュニティ関連の施設の多くが既存建築を活用したリノベ型だったこと。もちろん消失した群としての商店街を残った建物のリノベだけで再興することは出来ないし、かりそめの存在であることを受け入れて、まずは商売を再開したいという気持ちはわからないでもないが、仮設前提だとしても、新しい風景を作ることにデザイナーや建築家は知恵をもう少し絞ってもよいように感じられた。シーパルピア女川は都市計画との調和が図られていたので、ああいった配慮がこれから増えていくとよいなと思った次第。

女川駅から臨むシーパルピア女川

かわまちてらす閖上

柴田厳朗 | デザイン・ストラテジスト

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